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花粉症の注射治療(ゾレアなど)の効果と対象者は?

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2025.12.05

花粉症のシーズンが近づくと、「薬を飲んでも鼻水が止まらない」「目が痒くて仕事に集中できない」といった重い症状に悩まされる方も多いのではないでしょうか。 飲み薬や点鼻薬だけではどうしても症状が抑えられない、そんな「重症」の花粉症の方にとって、新しい選択肢として注目されているのが「注射治療」です。 特に、2020年からスギ花粉症に対して保険適用となった抗体製剤「ゾレア」は、高い効果が期待できる一方で、誰でも受けられるわけではありません。 この記事では、花粉症の注射治療、特にゾレアの効果や対象者、費用、そして従来のステロイド注射との違いについて詳しく解説します。

花粉症の注射治療:ゾレアとは?

花粉症の新しい治療法として話題の「ゾレア(一般名:オマリズマブ)」は、これまで気管支喘息や慢性蕁麻疹の治療薬として使われていた「抗IgE抗体製剤」です。 2020年より、「季節性アレルギー性鼻炎(スギ花粉症)」に対しても保険適用が認められました。

これまでの花粉症治療薬(抗ヒスタミン薬など)は、アレルギー反応によって放出された「ヒスタミン」などの化学伝達物質の働きをブロックするものでした。 しかし、ゾレアはアレルギー反応の「根本原因」に近い部分に作用します。

ゾレアの作用機序

私たちの体内でアレルギー反応が起こる仕組みは以下の通りです。

  1. 花粉(アレルゲン)が体内に入ってくる。
  2. 体内で「IgE抗体」という物質が作られる。
  3. IgE抗体が「肥満細胞(マスト細胞)」という細胞にくっつく。
  4. 再び花粉が入ってくると、肥満細胞上のIgE抗体と結合する。
  5. 肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出される。
  6. くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状が出る。

ゾレアは、この

IgE抗体そのものに結合し、肥満細胞とくっつくのを邪魔します

。 IgE抗体が肥満細胞と結合できなければ、花粉が入ってきてもヒスタミンが放出されることはありません。 つまり、

「アレルギー反応のスイッチが入るのを元から止める」

という非常に強力なメカニズムを持っています。

ゾレア治療を受けられる対象者(条件)

ゾレアは効果が高い反面、非常に高価な薬剤であり、使用するための条件(ガイドライン)が厳しく定められています。 「花粉症だから注射してほしい」と希望しても、すぐに打てるわけではありません。 以下の条件をすべて満たす方が対象となります。

必須条件チェックリスト

  • 重症または最重症の症状がある
    • くしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状が強く、日常生活に大きな支障がある状態です。
    • 1日の中でくしゃみや鼻をかむ回数が多い、または鼻づまりで口呼吸になってしまうようなレベルです。
  • スギ花粉症であること
    • 血液検査(特異的IgE抗体検査)で、スギ花粉に対するアレルギー反応が陽性(クラス3以上)であることが確認されている必要があります。
    • ヒノキやブタクサなど、他の花粉症のみの場合は対象外です。
  • 既存の治療を行っても効果が不十分
    • 従来の抗ヒスタミン薬や点鼻薬を一定期間(通常は1週間以上)使用しても、症状が治まらないことが条件です。
    • 「まだ薬を飲んでいないけど、最初から注射がいい」という場合は原則として認められません。
  • 12歳以上であること
    • 現在の適応は12歳以上となっています。
  • 血清中総IgE濃度と体重が基準内であること
    • 血液検査で測定した「総IgE濃度」と「体重」の組み合わせによって、投与量と投与間隔が決まります。
    • この数値が基準範囲外(IgEが高すぎる、または低すぎるなど)の場合は、投与できないことがあります。

これらの条件を確認するため、初回受診時には必ず問診と血液検査が行われます。

ゾレア以外の注射治療との違い

花粉症の注射治療には、ゾレア以外にもいくつか種類があります。 混同しやすい「ステロイド注射」や「減感作療法」との違いを理解しておくことが重要です。

注射治療の比較表

治療法ゾレア(抗体製剤)ステロイド注射(ケナコルト等)減感作療法(皮下注射)ノイロトロピン・ヒスタグロビン
仕組みIgE抗体をブロック強力な抗炎症・免疫抑制作用アレルゲンを少量ずつ入れて慣らすアレルギー体質の改善
効果の早さ即効性あり(数日〜)即効性あり効果が出るまで時間がかかる徐々に効果が現れる
持続期間2週間または4週間1回で1シーズン持つこともある長期間の継続が必要(3年以上)定期的な接種が必要
副作用リスク注射部位の腫れ、稀にアナフィラキシー全身性の副作用(ホルモン異常、生理不順、皮膚陥没、易感染性など)アナフィラキシーのリスク比較的少ない
推奨度重症例に推奨(ガイドライン記載あり)非推奨(副作用リスクが高いため)根治を目指すなら推奨補助的な位置付け
費用高額(保険適用でも高い)安価安価安価

ステロイド注射(ケナコルトなど)の注意点

昔から「花粉症の注射」として行われてきたものに、ステロイド薬(ケナコルトなど)の筋肉注射があります。 「1回打てばひと春持つ」といわれるほど劇的な効果がありますが、

日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会のガイドラインでは推奨されていません。

理由は、ステロイドが全身に長く留まることで、以下のような深刻な副作用のリスクがあるからです。

  • 副腎皮質機能の低下
  • 生理不順、不正出血
  • 満月様顔貌(ムーンフェイス)
  • 糖尿病や高血圧の悪化
  • 感染症にかかりやすくなる
  • 注射部位の皮膚の陥没・萎縮

手軽で安価なため実施しているクリニックもありますが、リスクを十分に理解する必要があります。 ドクターナウの提携医療機関では、患者様の安全を第一に考え、副作用のリスクが高い治療法については慎重な判断をお勧めしています。

ゾレア治療の流れとスケジュール

ゾレアによる治療を希望する場合、どのような流れで進むのでしょうか。 一般的なスケジュールは以下の通りです。

1回目の受診:適応の判定

まずは医師による診察を受けます。 鼻の中の状態を確認し、重症度を判定します。 その後、ゾレアの適応条件(スギ花粉症かどうか、IgE濃度など)を確認するための

血液検査

を行います。 ※過去の検査結果がある場合でも、体重と合わせた最新のデータが必要なため、再度採血が必要になることが一般的です。

2回目の受診:投与開始(約1週間後)

血液検査の結果が出て、全ての条件を満たしていることが確認できれば、いよいよ注射開始です。 総IgE値と体重に基づいて決定された量を、皮下に注射します(腕やお腹など)。 投与量が多い場合は、数回に分けて注射することもあります。

【注意点】

初回投与後は、稀に起こるアナフィラキシー(急激なアレルギー反応)に備えて、院内で30分程度待機して様子を見ることが推奨されています。

3回目以降の受診:継続投与

ゾレアの効果を持続させるため、

2週間または4週間ごと

に定期的に通院して注射を受けます。 花粉の飛散時期(通常は2月〜5月頃)に合わせて、シーズン中のみ継続します。 症状が落ち着き、花粉シーズンが終わればその年の治療は終了です。

ゾレアの効果とメリット・デメリット

メリット

  • 高い症状抑制効果: 飲み薬では効かなかった重症例でも、劇的な改善が期待できます。
  • 眠気が出ない: 抗ヒスタミン薬のような眠気の副作用がありません。
  • 他の薬と併用可能: 必要に応じて、通常の飲み薬や点鼻薬と併用することも可能です。
  • 生活の質の向上: 鼻づまりによる睡眠不足や、集中力低下から解放され、快適な日常生活を送れます。

デメリット

  • 費用が高い: 生物学的製剤であるため、薬価が高額です。
  • 定期的な通院が必要: 2〜4週間ごとの通院が必要です。
  • 注射の痛み: 皮下注射なので、採血や予防接種と同じくらいの痛みはあります。
  • 稀な副作用: 注射部位の赤みや腫れ、非常に稀ですがアナフィラキシーショックのリスクはゼロではありません。

費用について(高額療養費制度の活用)

ゾレア治療の最大のネックは費用です。 薬剤費だけで数万円かかることが一般的です。 投与量は体重とIgE値によって決まるため個人差が大きいですが、目安としては以下のようになります(3割負担の場合)。

  • 1回あたりの自己負担額: 約4,000円 〜 約70,000円
  • 1ヶ月あたりの薬剤費: 約4,000円 〜 約140,000円

かなり高額になるケースもありますが、

「高額療養費制度」

や、加入している健康保険組合の

「付加給付制度」

を利用することで、自己負担額を抑えられる場合があります。 年収によって上限額は異なりますが、一般的な所得の方であれば、月額8万円〜9万円程度が上限となることが多いです。 治療を検討する際は、事前に医療機関の窓口や、ご自身の保険証の発行元に相談することをお勧めします。 また、確定申告の「医療費控除」の対象にもなりますので、領収書は大切に保管してください。

まとめ

花粉症の注射治療「ゾレア」は、重症のスギ花粉症患者さんにとって強力な味方です。 従来の薬で効果を感じられず、毎年春が憂鬱だった方にとっては、生活を一変させる可能性があります。

ポイントの整理
  • ゾレアはアレルギーの元(IgE)をブロックする根本的な治療薬。
  • 「重症」「スギ花粉症」「既存薬が無効」などの厳しい条件がある。
  • ステロイド注射とは異なり、全身性の副作用リスクが低い。
  • 費用は高額だが、医療費助成制度を使える場合がある。

「自分は対象になるのかな?」「費用は具体的にいくらくらい?」と気になった方は、早めに耳鼻咽喉科やアレルギー科の専門医に相談してみましょう。 特に花粉シーズンが始まる前(1月〜2月上旬)に受診し、検査を済ませておくと、スムーズに治療を開始できます。

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