高齢者の便秘対策で注意すべきことは？

加齢とともに便秘になりやすくなることは珍しくありません。65歳以上の高齢者のうち、約68.6%が便秘の症状を抱えていると報告されています。高齢者の便秘は単なる不快感だけでなく、深刻な健康問題につながる可能性があるため、適切な理解と対策が重要です。このガイドでは、高齢者の便秘対策で特に注意すべきポイントをご紹介します。

高齢者に便秘が増える主な理由は、加齢に伴う身体の変化によるものです。筋力の低下により腹筋の力が弱くなり、排便に必要な力が不足するようになります。また、腸の動きを制御する神経機能も低下するため、腸のぜん動運動が減少します。さらに、高齢者が服用する薬の中には便秘を引き起こす副作用を持つものが多くあります。オピオイド鎮痛薬や抗コリン薬などがその代表例です。加えて、運動量の減少や水分摂取量の不足も便秘を悪化させる要因となります。

高齢者の便秘予防には、これらの原因を理解し、一つ一つに対処することが大切です。特に複数の薬を服用している場合は、医療業者に相談して薬の見直しを検討することをお勧めします。

便秘薬に頼るだけではなく、根本的な原因に対処することが長期的な解決につながります。高齢者は自分の身体の変化に気づきにくいことが多いため、家族のサポートも非常に重要になります。

高齢者の場合、運動は転倒のリスクを軽減するため、安全な環境での散歩や、椅子につかまった体操など、転倒のリスクが低い運動から始めることをお勧めします。また、水分摂取も一度に大量に摂取するのではなく、一日を通じて小分けにして摂取することが効果的です。

食物繊維は便秘対策の基本ですが、高齢者の場合は特に注意が必要です。食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、双方をバランスよく摂取することが重要です。不溶性食物繊維は便のかさを増やすため、腸の動きが弱い高齢者の場合、十分な水分なしに摂取すると、かえって便秘を悪化させる可能性があります。

りんご、バナナ、ニンジン、さつまいもなどの野菜や果物

玄米、全粒穀物、豆類、野菜の皮など

高齢者の場合、急激に食物繊維の摂取量を増やすと、腹部膨満感や腹痛を引き起こすことがあります。2週間程度かけて、徐々に摂取量を増やしていくことをお勧めします。

高齢者向けの便秘薬を選ぶ際には、特別な配慮が必要です。市販されている便秘薬の中には、高齢者にとって副作用が強いものが多くあります。例えば、刺激性下剤は腹痛を引き起こしやすく、長期使用による依存性も問題です。高齢者の場合、医療専門家の指導のもと、酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤など、比較的安全性の高い薬を選ぶことをお勧めします。

また、高齢者は複数の薬を服用していることが多いため、新しい便秘薬を開始する前に、必ず医療専門家に相談し、薬の相互作用を確認することが重要です。便秘薬と他の薬の組み合わせによって、予期しない副作用が発生する可能性があります。

高齢者の便秘が1週間以上続く場合、または便秘が原因で以下のような症状が現れた場合は、医療専門家に相談することが重要です。これらの症状は、より深刻な健康問題の兆候である可能性があります。

これらの症状が見られる場合、腸閉塞や腸の穿孔など、緊急の対応が必要な疾患の可能性があります。高齢者は若い世代よりも重大な合併症が発生しやすいため、異常を感じたら遠慮なく医療機関に足を運ぶことをお勧めします。

高齢者の便秘を予防するには、毎日の小さな工夫の積み重ねが重要です。朝起きた時に温かい飲み物を摂取することで、腸の動きが活発になります。また、毎朝決まった時間にトイレに座る習慣をつけることで、腸の自然なリズムが整いやすくなります。さらに、午前中の日光浴も効果的です。日光の刺激により、体内時計がリセットされ、規則正しい排便習慣につながります。

適度な運動も重要ですが、高齢者の場合は転倒防止が最優先です。散歩の際には、なるべく平坦で段差の少ないコースを選び、転倒のリスクを最小限に抑えることをお勧めします。また、気温の低い早朝や夜間の散歩ではなく、気温が上昇した時間帯を選ぶことで、循環器への負担も軽減できます。

ストレスも便秘の一因となるため、高齢者が好きな活動や趣味を大切にすることも重要です。読書や園芸、孫との時間など、心身ともにリラックスできる時間を意識的に作ることが、長期的な便秘改善につながります。

高齢者の便秘対策は、単に便秘を解消することだけでなく、全身の健康を守るために重要な取り組みです。加齢に伴う身体の変化を理解した上で、生活習慣の改善と医療専門家との連携が基本となります。便秘薬に頼るだけではなく、運動、食事、水分摂取、排便習慣など、複合的にアプローチすることが、長期的な改善につながります。高齢者ご本人が困難を感じる場合は、家族や医療専門家のサポートを積極的に求めることをお勧めします。症状が悪化したり、通常と異なる症状が見られたりする場合は、躊躇せずに医療機関に相談してください。